どうも、ハチワレです。
今回は組合運営における「組合員の除名」について解説します。
協同組合は「相互扶助の精神」のもと運営されます。そのため、基本的に組合事業は組合員のために実施されます。つまり、組合の顧客は組合員になります。
そのため、組合は組合員に事業を利用してもらい、その手数料を頂戴して運営するスキームで成り立っています。もちろん、その他、賦課金などを徴収することも可能です。
ここで少し内輪揉めの要因となってくるのが、事業協同組合の本質的な原則である「1人1票」というルールです。
組合事業を沢山利用して、手数料も多額の金額を組合に支払っている組合員も、全く組合事業を利用せず、組合に事業利用の手数料を払っていない組合員も、総会においては議決権は1票で平等です。もちろん、出資金の金額の多少も関係ありません。協同組合は「1人1票」です
そうすると、必然的に組合に多額の手数料を支払っている組合員企業などからは、「組合事業を利用しない組合員・・・除名した方がいいじゃね?」という意見がでてきます。
「そうだ!そうだ!!」と、その場では盛り上がりますが、ここで一旦、冷静になりましょう。
除名の決議は、組合運営でも重要な事項です。
ノリと勢いではなく、除名という決断が、組合も、そして除名対象となる組合員も、相互がWINーWINになることを考えて、法律に則り粛々と進めて行く必要が大切なのです。
- 組合事業を利用しない組合員がいる
- 理事会等の会議の中で組合員の除名に関する意見がでたことがある。
- すでに除名について総会の審議しようとしている
- 除名の手続きが分からない。
除名に関するルール
まずは、原則として、組合員の除名を決議できるのは「総会」だけです。理事長や理事会が勝手に除名することはできませんし、定款や規約等に除名の条件やルールを明文化していても、「総会」の決議無しで組合員を除名はできません。
組合員の除名に関する法律は次のとおりです。
(法定脱退)
第十九条 組合員は、次の事由によつて脱退する。
一 組合員たる資格の喪失
二 死亡又は解散
三 除名
四 第百七条及び第百八条の規定による公正取引委員会の確定した排除措置命令
五 持分の全部の喪失(信用協同組合又は第九条の九第一項第一号の事業を行う協同組合連合会の組合員に限る。)
2 除名は、次に掲げる組合員につき、総会の議決によつてすることができる。この場合は、組合は、その総会の会日の十日前までに、その組合員に対しその旨を通知し、かつ、総会において、弁明する機会を与えなければならない。
一 長期間にわたつて組合の事業を利用しない組合員
二 出資の払込み、経費の支払その他組合に対する義務を怠つた組合員又は第九条の十一第六項の規定に違反した特定組合員
三 その他定款で定める事由に該当する組合員
3 除名は、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもつてその組合員に対抗することができない。
中小企業等協同組合法
つまり、法律における除名のルールを要約すると、
1.長期にわたって組合の事業を利用しない組合員
2.出資金の払込をしない組合員
3.経費払込をしない組合員
4.その他、組合に対する義務を怠った組合員
5.定款に定める事由に該当する組合員
以上のような組合員は総会の決議で除名できます。としています。
なお、条文上にある、第九条の十一第六項の規定とは企業組合に関することですので、事業協同組合の場合は考慮しなくても大丈夫です。
そして、これをベースに定款が作成されておりますので、定款参考例を準拠して組合定款を作成した場合は、次のような定款になっていると思われます。
(除 名)
第13条 本組合は、次の各号の一に該当する組合員を総会の議決により除名することができる。この場合において、本組合は、その総会の会日の10日前までに、その組合員に対しその旨を通知し、かつ、総会において、弁明する機会を与えるものとする
(1)長期間にわたって本組合の事業を利用しない組合員
(2)出資の払込み、経費の支払いその他本組合に対する義務を怠った組合員
(3)本組合の事業を妨げ、又は妨げようとした組合員
(4)本組合の事業の利用について不正の行為をした組合員
(5)犯罪その他信用を失う行為をした組合員
(6)第8条第2項各号の一に該当する組合員
組合定款
定款では除名の理由を事業を利用しない組合員や支払を怠った組合員のほか、より具体的に、事業を妨害しようとした組合員、不正をはたらいた組合員、信用を失う行為をした組合員、暴力団に関与している組合員と指定しています。
除名の手続き
組合員の除名を決議できるのは総会のみです。だからと言って、議案に載せまーす、賛成多数で決議しまーす、といった単純なものではありません。
除名を決行するためには、しっかりとした手続きが必要になります。法律や定款には次の様な手続きが記載されています。
1.組合は、その総会の会日の十日前までに、その組合員に対しその旨を通知し、かつ、総会において、弁明する機会を与えなければならない。
2.除名は、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもつてその組合員に対抗することができない。
つまり、総会で弁明の機会を与えることを10日前までに告知する必要があります。そして、除名の場合はその旨を必ず通知する、ということです。
除名対象者に弁明の機会を与える通知と、除名した通知の様式は下記を参考にしてください。
\ ダウンロードできます /
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なお、いずれも必ず通知しなければいけない文書ですので、内容証明郵便で送付するなどの対策を講ずることをお勧めします。
また、組合員の除名は総会の「特別議決」に該当します。そのため過半数が出席する総会で、出席者の2/3以上の多数よる決議が必須ですので、間違えないようにしてください。
除名と自由脱退
組合員を除名するという行為は、非常に重い決断です。
除名は、自由脱退と同様、結果としては組合から脱退することになるのですが、定款によっては除名となると、出資金に対する持分の払戻しが半額となる場合があります。(自由脱退の場合は、出資金全額が持分として払い戻されます。ただし、いずれの場合も組合の正味資産の金額により増減します)
除名される側からすると、仲間から外された上に、自分の持分も減らされてしまうのでは腹の虫がおさまりません。どうせ辞めるのであれば脱退届を提出し自由脱退とした方が、まだお金が多くもどってくる可能性があります。
しかし、いきなり組合から除名決議通知書が届き、弁明の機会を与えるから総会に来てくださいでは「てめ~このやろ~」になります。
このように、除名処分という行為は遺恨を残す可能性が高く、法定にまで発展することもありますので、本当に慎重に進めなければいけません。
曖昧な除名の理由
法律や定款で記載している除名理由の中に、「長期間、組合の事業を利用していない」というものがあります。
この「長期間」という表現、本当に曖昧です。
長期間というのは人によって感覚が違いますし、組合員や組合の活動状況からも違ってきます。そのため、どれぐらい利用していないと、この条文の対象となるのかは、正直不明です。
つまり、そのような曖昧な基準を盾に、組合員の除名をしようとすると、「何を基準にして長期間と判断したんだ!!」と痛い反撃をもらう可能性もあります。
そもそも除名勧告を受けた組合員は「てめ~このやろ~」状態ですので、組合の甘い判断や、事務手続きのミスなどをゴリゴリと追求し、総会の議案にした組合の理事の責任まで問い詰めるかもしれません。注意しましょう。
まとめ
このように、組合員の除名は、事務手続き上みとめられる行為ではありますが、安易に実行するべき決議ではありません。
組合事業を利用しない組合がいる場合は、しっかりその理由を聞いて、組合事業の改善を進めるか、加入や脱退は自由であるのが組合であることから、除名勧告の前に、一度脱退してみることを相談するなど、組合も組合員もWIN―WINな関係を維持できるよう行動してみましょう。